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いつも“FUN PLACE”であるために

第二次安倍内閣がデフレ経済からの脱却を目指し、「アベノミクス」を推進。日本経済はゆっくりと回復へ向かっていきました。景気の大きな変動がない安定した社会の中で人々の価値観はますます多様になり、外食産業においては一人焼肉店やサラダ専門店、タピオカドリンク専門店など様々な業態が展開されました。そんな中、日本マクドナルドも消費者が求める多種多様なニーズに対応しようと、様々なキャンペーンを打ち出しましたが、ニーズを捉えきることができず、2011年から徐々に業績が悪化。2015年には大幅な赤字に陥りました。そこからお客様の信頼を獲得すべく、お客様の声を反映する取り組みを強化し、ブランドの再構築に努めました。また多様な価値観をもつお客様一人ひとりに応える新たなサービスも開始し、2019年には創業以来最高の売上高を更新しました。

  • 1.信頼の回復は、お客様の声を聞くことから―顧客主義の徹底―
  • 2.SNSで“FUN”づくり―様々なSNSキャンペーンを展開―
  • 3.マクドナルドから、日本の未来を―先駆的なサービス導入―

信頼の回復は、お客様の声を聞くことから―顧客主義の徹底―

2011年3月11日に発生した東日本大震災。この未曾有の大災害は人々の価値観やライフスタイルに大きな変化をもたらしました。たとえば、エネルギーの消費について。日本全国で電力が不足したことによって無駄な消費を控える意識が芽生え、2006年から日本マクドナルドが行っていた24時間営業にも、多くの店舗で本当に必要なのかを考えるきっかけとなりました。また、その前の2010年代のはじめからは日本マクドナルドの取り組みと実際のお客様のニーズに少しずつ乖離が生じ始めていました。“レジカウンターからメニュー表を撤廃”してよりスピーディーなサービスを実現させようと取り組んだものの、多くのお客様からは「不便」などの声があがり、逆にお客様の不満につながってしまいました。また、“バーガーを60秒で提供”といったキャンペーンは、本来のスピードサービスの改善にはいたらず、クルーへの負担増となりました。また、それを見たお客様の「従業員が大変そう」といった声がSNSに上がり、「従業員を大切にしない」という、ブランドにとって大きなマイナスのイメージがついてしまいました。そんな中、2014年に上海にあるマクドナルドの取引先工場内で、商品に使用する鶏肉を不適切に扱っている映像が報道されました。調査の結果、問題のある鶏肉は日本には輸入されていなかったという事実が確認されましたが、日本マクドナルドは、中国産チキン商品の販売を即座に中止するなどの緊急の対応を取りました。さらに、翌年には商品への異物混入に関する報道が続きました。これらの出来事によってブランドへの信頼が失墜し、消費者のマクドナルド離れが加速し、2015年度末には日本マクドナルド史上最大の約350億円の赤字を計上しました。
日本マクドナルドはお客様の信頼を取り戻すため、経営を再び立て直すためのビジネスリカバリープランを策定します。その中で重要な戦略的なアプローチとしたのが、“お客様の声を聞くこと”でした。マクドナルドの最も大切な価値観の一つ「Customer First(すべてはお客様を第一に考えて行動する)」の積極的な実行が必要であると考えたためです。
当時社長に就任していたサラ・カサノバは1年間で47都道府県の店舗を訪問し、直接お客様との会話を行いました。“食品について特に厳しい目を持つのは、いつも家族のことを想う母親である”との考えから、日本全国の母親たちと直接マクドナルドについて話し合う活動を実施。様々なお客様の声を経営のトップが直接うかがい、そこで得た厳しい意見や新たな発見をスタッフに共有し、次々と経営と顧客とのコミュニケーションの向上に反映しました。パッケージのQRコードから商品原材料の原産国情報が確認できるようになったのもその一例です。また現役の母親たちに店舗や農場、オフィスなど食の安全・安心に関わる現場を直接確認いただく「ママズ・アイ・プロジェクト」を実施したほか、スマートフォンのマクドナルド公式アプリを通じてお客様が店舗に意見を伝えられる仕組み「KODO」も開始しました。そして、実際の店舗体験が改善するよう、既存店舗全店の改装を行い、同時に人材の育成のため、すべてのマニュアルの改訂も行いました。このような信頼回復のための取り組みを地道に重ねていくことで、少しずつではありますが、再びお客様から信頼いただけるようになり、お客様のマクドナルドに対するブランド評価も高まりました。さらにこの頃からSNSを活用しお客様参加型のキャンペーンに力を入れたことも功を奏し、その結果業績の回復を遂げることができました。そして、さらなる成長を遂げ、2019年の売上高は、創業以来最高額の5,490億円となりました。日本マクドナルドは経営者から店舗のクルーまでが全社一丸となって再生に取り組んだことで、過去最大の赤字を乗り越えたのです。

KODO

KODO

SNSで“FUN”づくり―様々なSNSキャンペーンを展開―

「〜なう」、「インスタ映え」。2010年代の新語・流行語には、SNSにまつわる言葉が数多く見られました。まだ一部の人だけが利用する“時代のトレンド”だったSNSが、多くの人々の生活に欠かせないツールとして定着していったのは、2011年に発生した東日本大震災の影響が大きいと言われています。固定電話や携帯電話などの連絡手段がつながりにくい中で、インターネット回線を利用するSNSが様々な情報をリアルタイムに発信・収集。これが人々の安心につながり、震災以降SNSの利用者数はスマートフォンの普及と共に増加しました。2020年現在、日本でのSNS普及率は約80%に達するそうです。またSNSの浸透によって、企業の情報発信の仕組みも変化しました。それまで一方的だったPR活動は双方向となり、企業と消費者との距離感はぐっと近く。さらに、消費者が企業の投稿をシェアすることで情報が拡散し、非常に速いスピードで多くの人に商品やサービスを伝えられるようになりました。
日本マクドナルドが2015年の赤字から業績を回復できた理由の一つには、実はこのSNSによる新たなマーケティング施策があります。業績悪化後、カサノバがお客様を訪ねて直接意見をうかがっていたときに「マクドナルドらしさを取り戻してほしい」という声を何度も耳にしました。人々が考えている“マクドナルドらしさ”とは、清潔な店内やクルーの笑顔、魅力的な商品だけではなく、“いつも楽しませてくれる存在であること”だったのです。そこで、マクドナルドの理念である“FUN PLACE TO GO(マクドナルドに行けば何か楽しいことがある)”に立ち戻ろうと、おもしろくてユニークなキャンペーンを行うことに。その際、SNSを大いに活用しました。たとえば、2016年に実施した「名前募集バーガー」キャンペーンでは、北海道産の食材を使った新商品の名前をTwitterで募集。するとこのキャンペーンが瞬く間に多くの人に拡散され、ネーミング案の総数は国内の「名前募集キャンペーン」史上最大級※となる500万件以上にのぼりました。このようにワクワクするキャンペーンをSNSで何度も行い、それをリアルな店舗とクロスさせることによって、再びお客様に“FUN”を感じていただけるブランドを目指していきました。
※公募ガイド社調べ

東日本大震災発生を知らせる毎日新聞の号外 写真:毎日新聞社提供

東日本大震災発生を知らせる毎日新聞の号外
写真:毎日新聞社提供

2016年に実施した「名前募集バーガー」キャンペーン

2016年に実施した「名前募集バーガー」キャンペーン

マクドナルドから、日本の未来を―先駆的なサービス導入―

高度経済成長、バブル景気、失われた10年、デフレの長期化…。50年の間に、日本社会の情勢や人々のライフスタイル、価値観は大きく変わってきました。日本マクドナルドはいつもその時代のニーズに合わせ、ドライブスルー店舗のオープンや「サンキューセット」の発売、24時間営業店舗の導入など業界を牽引する画期的なサービスや商品の開発に取り組んできました。Uber Eatsの日本参入や新型コロナウイルスの影響などによって、ここ数年で急速に身近なものになったフードデリバリーサービスを始めたのも2010年のことです。
現在、世の中の変化のスピードはますます加速し、人々の価値観やライフスタイルがさらに多様になっています。マクドナルドに対してお客様が求めることも、スピーディーな対応や商品のおいしさ、丁寧な接客、クルーとのちょっとした会話など様々。そのような多様なニーズに応えるため、日本マクドナルドでは2019年より「未来型店舗体験」サービスの提供をスタートしました。お客様一人ひとりが店舗で快適に過ごしていただくことを目的に、テクノロジーを活用しつつクルーのおもてなしを強化した数々のサービスを行っています。たとえば、店舗におけるお客様対応の専門職「おもてなしリーダー」の配置や、ご注文いただいた商品をクルーがお席までお持ちする「テーブルデリバリー」、スマートフォンの公式アプリで注文から決済までできる「モバイルオーダー」の導入もその施策の一つ。早い、便利、おいしい、楽しい、お得という従来の強みに加えて、ニーズにきめ細かく対応し、新しい快適さを提供できるように進化しました。
これからの日本社会は、どのように変わっていくのでしょうか。当たり前だと思っていた日常は急速に変化し続け、もはや“ノーノーマル”とも言える不確かな時代となりました。日色保社長は言います、「お客様の声を伺い、正しく変化することが大事」だと。この先どのような変化が訪れても、日本マクドナルドの目指す姿は変わることはありません。いままでの50年間と同じように、その時代に必要とされる新たな価値を創りあげていきます。いつでも、すべてのお客様にとって快適な食事空間を提供し続けるために。

2010年に開始したフードデリバリーサービス「マックデリバリー」

2010年に開始したフードデリバリーサービス「マックデリバリー」